THE 総合内科 ~診断力、総合力、感染症~

総合内科医の知の共有 ~ 医療従事者にとっては、臨床に有用な情報を 一般の方に対しては、根拠のある健康情報を提供します

sIL-2R(可溶性IL-2受容体)はリンパ腫の鑑別に有用か?

 不明熱の鑑別において、リンパ腫は最も重要で、かつ臨床医を悩ませるものの一つです。

リンパ節腫大がないリンパ腫(血管内リンパ腫、肝脾原発リンパ腫)もあり、リンパ節腫大があっても、(全身状態、年齢などから)すぐに生検ができるわけではありません。

簡便な血液検査でのマーカーにより、不明熱からリンパ腫を拾い上げることができればよいのですが、現時点では確実なものはありません。その中で、最も有用なマーカーが、可溶性IL-2受容体(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)です。

sIL-2Rがリンパ腫の診断において有用かどうか、これまでにもいくつかの研究報告がありますが、結論としては下記のようにまとめることができると考えます。

 

以下、sIL-2Rの基本的なことや、研究論文をご紹介します。

 

sIL-2R値の意義

・活性化リンパ球の程度を反映

・リンパ腫に特異的なマーカーではない

・感染症、膠原病・自己免疫疾患でも上昇する

 

●sIL-2R値が高値となる疾患・病態

・リンパ腫(非Hodgkinリンパ腫、成人T細胞リンパ腫、Hodgkinリンパ腫)

・白血病(成人T細胞白血病、ヘアリー細胞白血病)

・感染症(ウイルス感染症、敗血症、粟粒結核)

・自己免疫疾患(SLE、成人スティル病、血管炎など)

・血球貪食症候群

・固形悪性腫瘍

・間質性肺炎

注意点

・sIL-2Rは腎排泄のため、腎機能低下、血液透析患者では高値となることがある

・リンパ腫でも高値とならない例がある

 

sIL-2Rのリンパ腫診断の有用性についての研究報告をみてみます

The impact of serum soluble interleukin-2 receptor levels on the diagnosis of malignant lymphoma  T Tsujioka, et al.  Kawasaki Medical Journal 2011; 37: 19-27. (PDF)

・リンパ腫と診断された443例と、非血液疾患(リンパ腫以外)の835例

・リンパ腫443例のsIL-2Rはmedian 1330U/L(range; 197-84200)と非血液疾患のmedian 827U/L(range; 106-18100)より有意に高値であった

・sIL-2Rのcut off値を1500U/mLとした場合、リンパ腫であるodds ratioは3.123で、さらに年齢(≥60歳)、WBC(<10000/μL)、CRP(<0.4mg/dL)を加えた場合のodds ratioは4.047であった

下の表は、非血液疾患の6つのカテゴリー別のsIL-2RやCRPなどの結果ですが、

リンパ腫以外でもsIL-2R 5000さらには10000U/mLを超える高値となることがあることがわかります。具体例として、劇症肝炎の例でsIL-2R 18100U/mLと著明な高値となっていることが本文からわかります。

さらに、下の表は、sIL-2R値別のリンパ腫、非血液疾患の分布ですが、

リンパ腫以外でも、16.3%(136/835)はsIL-2R≥2000U/mLとなっています。

さすがに、sIL-2R≥5000U/mLを超えるほどの高値を示すのは、リンパ腫以外の群では835例中22例(2.6%)と少数になっています。

 

次の論文です。

Serum soluble interleukin-2 receptor levels for screening for malignant lymphomas and differential diagnosis from other conditions.  J Murakami, et al. 

Mol Clin Oncol 2019; 11: 474-82.  (PMID: 31620278)

・リンパ腫が疑われ大学病院血液内科に入院した248例

・リンパ腫群133例のsIL-2Rはmedian 920U/mL(range; 159-58089)(mean 3240 ±SD 7312)と、非リンパ腫群115例のmedian 520U/mL(range; 150-4433)(mean 786 ±SD 727)より有意に高値

 (リンパ腫群のsIL-2R値は非常にばらつきが強いことがわかります)

さらに、

上の表では、sIL-2R≥2000U/mLでは14.8%(8/54)が非リンパ腫8例です。

しかし、sIL-2Rが≥2500U/mL、≥3000U/mL、≥4000U/mLとなると、非リンパ腫の割合は9.8%、7.9%、3.7%と低くなり、≥5000U/mLの著明高値は20例全例がリンパ腫と診断されていることがわかります。

・リンパ腫診断のためのsIL-2Rは、cut off値を1946U/mLとした場合に最大で、感度35%、特異度87%、陽性尤度比5.06でした

 

(参考文献)

・The impact of serum soluble interleukin-2 receptor levels on the diagnosis of malignant lymphoma  T Tsujioka, et al.  Kawasaki Medical Journal 2011; 37: 19-27. (PDF) 

・Serum soluble interleukin-2 receptor levels for screening for malignant lymphomas and differential diagnosis from other conditions  J Murakami, et al. 

Mol Clin Oncol 2019; 11: 474-82.  (PMID: 31620278)

・不明熱・不明炎症 レジデントマニュアル、編集:國松 淳和、医学書院