急性の単関節炎において頻度が高い化膿性関節炎と偽痛風について考察します。
頻度としては、化膿性関節炎が10-20%、偽痛風などの結晶性関節炎が約80%です。
これらの疾患は、治療法も予後も大きく異なりますが、臨床所見や、関節液検査などからは鑑別が難しいこともしばしばです。
特に化膿性関節炎は、下記の点から、速やかな確定診断が極めて重要です。
・迅速な抗菌薬治療および整形外科的な感染巣コントロールが必要
(関節への細菌感染から数日以内には軟骨組織の破壊が生じる)
・軟骨や骨組織の破壊へと至る可能性がある他、菌血症、敗血症の合併を起こし死亡することもある
(化膿性関節炎については、こちらの記事もご参照ください)
一方、偽痛風は、基本的にはNSAIDsにより速やかに改善し予後は良好です。
これら、偽痛風と化膿性関節炎はどちらも、発熱、罹患関節の炎症(腫脹、発赤、熱感、疼痛)、血液検査では白血球やCRPの増多を伴い、症状や診察、血液検査での炎症所見からは鑑別は困難です。
さらに、偽痛風自体が化膿性関節炎の原因となることがあり、同時に両方起こしていることもあります。つまり、
「関節液検査でピロリン酸カルシウムの結晶がある」≠「化膿性関節炎ではない」
ということに注意が必要です。
鑑別の鍵は細菌検査ですが、グラム染色は、精度が検体の質、検者の技量、菌量などに左右されるため、グラム染色で菌を確認できなくても、化膿性関節炎を除外はできません。
化膿性関節炎が疑わしい場合は、培養検体(血液、関節液)を採取の上で抗菌薬治療を開始しておくのが無難です。
鑑別
症状や診察所見からの鑑別は困難
関節液からの菌の証明ができれば、化膿性関節炎と診断
(関節液グラム染色の感度29-50%、培養の感度82%)
注意点として、グラム染色の感度は十分ではないため、塗抹陰性のみでは化膿性関節炎は否定できないということです。培養は感度が上がりますが、結果判明までに時間を要します。
そこで、簡便な評価として、関節液のWBC数があります。
関節液WBC数で化膿性関節炎と偽痛風などの他の関節炎を鑑別できるか、については多くの研究がされており、結論としては、
「著増(WBC>5~10万/μL)していれば、化膿性関節炎の可能性が高くなるが、低くても除外はできない」です。
具体的な関節液WBC数のcut off値としては、JAMA 2007; 297: 1478-88の報告で
・WBC>10万/μL:感度29%、特異度99%、LR+ 28.0(12.0-66.0)
・WBC>5万/μL:感度62%、特異度92%、LR+ 7.7(5.7-11.0)
・WBC>2.5万/μL:感度77%、特異度73%、LR+ 2.9(2.5-3.4)
と報告されています。
関節液WBCが>10万/μLを超えるような著増をしていれば、ほぼ化膿性関節炎と診断してよさそうです。WBC>5万/μLでもかなり化膿性関節炎の可能性が高くなりますが、WBC 2~3万/μLくらいだと、化膿性も非化膿性もそれなりにあることになります。
WBC数だけでなく、その多形核白血球が>90%の場合も、化膿性関節炎の可能性を上げます(感度73%、特異度79%、LR+ 3.4(2.8-4.2))。
その他、ここでは詳細は述べませんが、procalcitonin値も鑑別に有用な可能性があります。
(参考文献)
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases Eighth Edition. ELSEVIER
Does this adult patient have septic arthritis? Mary E Margaretten, et al. JAMA 2007; 297: 1478-88. PMID: 17405973
Bacterial septic arthritis in adults. Catherine J Mathews, et al. Lancet
2010; 375: 846-55. PMID: 20206778